2013年11月27日

怖い話 禍々しい海の怪物

その地域の人にとっては当たり前のことでも、よそ者からすれば全く知らないことってたくさんあるのではないだろうか。

その多くは、よそ者は知らなくても良い事。

だけど、それを知らなかったがために危険な目にあったり、命が脅かされるようなことがあるとすれば・・・・


まだ学生だった頃、友人と旅に出た。たしか後期試験の後だったから、真冬だな。

旅とは言っても、友人の愛犬と一緒にバンに乗って当てもなく走っていくだけの気楽なもんだ。

何日目だったか、ある海辺の寒村に差し掛かったころ既に日は暮れてしまっていた。

山が海に迫って、その合間にかろうじてへばり付いている様な小さな集落だ。

困ったことにガソリンの残量が心もとなくなっていた。

海岸沿いの一本道を走りながらGSを探すとすぐに見つかったのだが、店はすでに閉まっている。

とりあえず裏手に回ってみた。

玄関の庇から、大きな笊がぶら下がっている。

出入りに邪魔だな、と思いながらそれを掻き分けて呼び鈴を鳴らしてみた。

「すんませーん。ガソリン入れてもらえませんかー?」

わずかに人の気配がしたが、返事はない。

「シカトされとんのかね」

「なんかムカつくわ。もう一度押してみいや」

「すんませーん!」

しつこく呼びかけると玄関の灯りが点き、ガラス戸の向こうに人影が現れた。

「誰や?」

「ガソリン欲しいん…」

「今日は休みや」

オレが言い終える前に、苛立ったような声が返ってくる。

「いや、まぁそこを何とか…」

「あかん。今日はもう開けられん」

取り付く島もなかった。諦めて車に戻る。

「これだから田舎はアカン」

「しゃーないな。今日はここで寝よ。当てつけに明日の朝一でガス入れてこうや」

車を止められそうな所を探して集落をウロウロすると、GSだけでなく全ての商店や民家が門を閉ざしていることに気付いた。

よく見ると、どの家も軒先に籠や笊をぶら下げている。


「なんかの祭やろか?」

「それにしちゃ静かやな」

「風が強くてたまらん。お、あそこに止められんで」

そこは山腹の小さな神社から海に向かって真っ直ぐに伸びる石段の根元だった。

小さな駐車場だが、垣根があって海風がしのげそうだ。

鳥居の陰に車を止めると、辺りはもう真っ暗でやることもない。

オレたちはブツブツ言いながら、運転席で毛布に包まって眠りについた。

何時間経ったのか、犬の唸り声で目を覚ましたオレは、辺りの強烈な生臭さに気付いた。

犬は海の方に向かって牙を剥き出して唸り続けている。

普段は大人しい奴なのだが、いくら宥めても一向に落ち着こうとしない。

友人も起き出して闇の先に目を凝らした。

月明りに照らされた海は、先ほどまでとは違って、気味が悪いくらい凪いでいた。

コンクリートの殺風景な岸壁の縁に蠢くものが見える。

「なんや、アレ」

友人が掠れた声で囁いた。

「わからん」

それは最初、海から這い出してくる太いパイプか丸太のように見えた。

蛇のようにのたうちながらゆっくりと陸に上がっているようだったが、不思議なことに音はしなかった。

と言うより、そいつの体はモワモワとした黒い煙の塊のように見えたし、実体があったのかどうかも分からない。

その代わり、ウウ…というか、ウォォ…というか、形容し難い耳鳴りがずっと続いていた。

そして先ほどからの生臭さは、吐き気を催すほどに酷くなっていた。

そいつの先端は海岸沿いの道を横切って向かいの家にまで到達しているのだが、もう一方はまだ海の中に消えている。

民家の軒先を覗き込むようにしているその先端には、はっきりとは見えなかったが明らかに顔のようなものがあった。

オレも友人もそんなに臆病な方ではなかったつもりだが、そいつの姿は、もう何と言うか「禍々しい」という言葉そのもので、一目見たときから体が強張って動かなかった。

心臓を鷲掴みにされるってのは、ああいう感覚なんだろうな。

そいつは、軒に吊るした笊をジッと見つめている風だったが、やがてゆっくりと動き出して次の家へ向かった。

「おい、車出せっ」

友人の震える声で、ハッと我に返った。

動かない腕を何とか上げてキーを回すと、静まり返った周囲にエンジン音が鳴り響いた。

そいつがゆっくりとこちらを振り向きかける。

(ヤバイっ)

何だか分からないが、目を合わせちゃいけない、と直感的に思った。

前だけを見つめ、アクセルを思い切り踏み込んで車を急発進させる。

後部座席で狂ったように吠え始めた犬が、「ヒュッ…」と喘息のような声を上げてドサリと倒れる気配がした。

「太郎っ!」

思わず振り返った友人が「ひぃっ」と息を呑んだまま固まった。

「阿呆っ!振り向くなっ!」

オレはもう無我夢中で友人の肩を掴んで前方に引き戻した。

向き直った友人の顔はくしゃくしゃに引き攣って、目の焦点が完全に飛んでいた。

恥ずかしい話だが、オレは得体の知れない恐怖に泣き叫びながらアクセルを踏み続けた。


それから、もと来た道をガス欠になるまで走り続けて峠を越えると、まんじりともせずに朝を迎えたのだが、友人は殆ど意識が混濁したまま近くの病院に入院し、一週間ほど高熱で寝込んだ。

回復した後も、その事について触れると激しく情緒不安定になってしまうので、振り返った彼が何を見たのか聞けず終いのまま、卒業してからは疎遠になってしまった。

犬の方は、激しく錯乱して誰彼かまわず咬みつくと思うと泡を吹いて倒れる繰り返しで、可哀そうだが安楽死させたらしい。

結局アレが何だったのかは分からないし、知りたくもないね。

ともかく、オレは海には近づかないよ。
posted by 朱雀門の鬼 at 20:51 | モンスター
2013年11月26日

夏山のキャンプで遭遇した軟体動物のモンスター

夏山のキャンプで遭遇したという、巨大な軟体動物のモンスターの怖い話。

それは、皮肉にも美しかったという。

UMAのように未知の生命体だったのか?

それとも、妖怪のような類だったのだろうか・・・・?


友人の話。


夏山キャンプでテントを設営していた時のこと。

ペグを地面に打ち込むと、テントの周りの地表が急に波打ち始めた。

何事かと引き抜くと、いきなり地中より、柔らかく湿ったものが飛び出してきた。

どうやら設営地の真下に潜んでいたらしい。


彼の悲鳴を聞いて集まった仲間の見たものは、彼の身体に巻きついている巨大な軟体動物だった。

蒼黒い体表に、七色の筋がいくつも走っていたらしい。

ミミズに似ていたが、嫌になるくらい大きくて、且つ美しかったという。

それは彼から引き離されると、意外に機敏な動きで地中に潜り込んでしまった。


身体表面に鋭い刺を持っていたらしく、彼は身体中傷だらけになっていた。

しばらく熱を出して寝込んだそうだ。
posted by 朱雀門の鬼 at 14:59 | モンスター

山の怖い話 鏡の中に潜む怪物

山や海というのは、昔から怖い話がつきもの。

とある山では、「この山で鏡を見てはいけない」と言い伝えられているのだという。

鏡の中には、怪物が潜んでいて、見たものあの世へと引きずり込んでしまうのだとか・・・・


昔、家の近所の山に粗末な山小屋があって、そこにオナガさんって人が住んでいた。

めったに山から降りてこなくて、なんの仕事をしていたのか分からない。

オナガっていうのもどんな字か知らないし、もしかしたらオオナガだったかもしれない。


俺と友だちで、オナガさんの山小屋に遊びに行ったことがある。

その時、俺は「どうしてこんなところに住んでいるのか?」って意味のことを聞いた。

その時の話がスゲエ怖くて、しばらくは夜一人で寝れなかった。


オナガさんは、ちょっと前まで普通の家に住んでた。

家はちょっとした山持ちで、代々受け継いだ山がいくつかある。

そのうちの一つに、妙な言い伝えがあった。

「その山で鏡を見てはいけない」

いかにも曰くありげな口伝だったが、 オナガさんは、親父さんや山守をしている飯橋のじいさんに聞いたらしい。


ある時、その山の奥で木を切ることになって、飯橋じいさんの孫でトシカズって人が、そこまで道を通すことになった。

土建屋で借りて来たパワーショベルで、山を切り開いて道にしていく。

その日、オナガさんは作業の様子を見に行った。

ちょうど例の山に差し掛かっていたらしい。

パワーショベルに乗っていたトシカズさんが、急に作業の手を止めた。

怪訝な顔でバックミラーを覗いている。

「…どないした?」

オナガさんが近付くと、トシカズさんはミラーを指差して言った。

「や、ここにね、何か変なモンが映っとるんですよ」

オナガさんがミラーを見ると、自分とトシカズさんの背後にポツンと白い点があった。

ジッと見つめいていると、僅かに動いている。

振り向いたが、近くにそんなモノは見当たらない。

「さっきから、ちょっとずつ近付いとるみたいなんですわ…」

気味が悪かったので、その日はそこで作業を切り上げ、二人で飲みに行った。

その日から、トシカズさんの様子がおかしくなった。

あきらかに何かに怯えている。

オナガさんも気付いていた。

家でも外でも、鏡を覗くたびに背後に見える白い点。

「あいつどんどん近付いてくるんですわ」

近付くにつれ、オナガさんにもソイツの姿がハッキリと見えてきた。

胎児のように白い皮膚、短い手足。

丸い頭には、切り裂いたかのように大きな口だけがついている。

見ためは人の口。まったく血の気のない白い唇が、しっかりと閉じられている。

トシカズさんは、もう作業ができないくらい精神的に参っていた。

「もう、すぐ後ろにおる…」

数日後トシカズさんが、閉じ篭った自宅の部屋で死んでいるのが見つかった。

後頭部に一口大の穴が開いていて、脳みそが全部無くなっていた。

「トシカズはあいつにやられたんや。あいつがおるのは鏡の中だけやない。 ガラスや光る物にも写る。見るたびにどんどん近付いてくる…せやから俺は、こんな山小屋に住んでいるんや」

山小屋には、ガラスや光沢のある金物など、何かが写り込むようなものは何もなかった。

「…それでも、時々水面とかを見てしまうことがある。俺、もう半分食われとるんや。こないだ、とうとう口を開けよった。米粒みたいな歯がびっしり並んどったわ」

そう言って、オナガさんは腕まくりをして見せた。

手首の辺りに、細かい点の並んだ歯型があった。

それからしばらくして、オナガさんが死んだと聞いた。

死に様は分からなかった。

寝れない夜が、またしばらく続いた。
posted by 朱雀門の鬼 at 14:46 | モンスター